事務所に住むのは違法?建築基準法の用途・消防・賃貸契約の決まりと、住みながら働ける物件の選び方
家賃を抑えるために、仕事場として借りたオフィスにそのまま住めないかと考える人は少なくありません。会社を辞めて独立したばかりの時期や、自宅と事務所の二重家賃が重いときほど、この考えは魅力的に見えます。
ただ、事務所として借りた部屋で暮らすことは、建物の用途を決めている建築基準法、消防の決まり、そして賃貸契約で約束した使い方の3つとぶつかります。このうち借りる人に一番直接かかわるのは契約で、建物の用途や消防の決まりは主に建物の持ち主が守る側の決まりです。ただし、住むことでそれらに合わない状態を作れば、持ち主が退去を求める理由になり、行政から使い方の是正を求められることもあります。
この記事では、3つの決まりがそれぞれ何を決めているのかを順に説明し、住民票や家賃の消費税がどうなるか、「泊まる」と「住む」の境目、住みながら働きたいときに選ぶべき物件と契約前に確かめる書類までをまとめます。
事務所に住むことがぶつかる3つの決まり
最初に全体像をつかんでおくと、どこに問題があるのかが見えやすくなります。3つの決まりは、決めている中身も、主に守る人も違います。
| 決まり | 何を決めているか | 主に守る人 | 住むと起きること |
|---|---|---|---|
| 建築基準法(建物の用途) | その建物を何に使う前提で建てたか。用途ごとに窓(採光)や避難などの基準が違う | 建物の持ち主 | 住宅の基準を満たさない部屋に人が暮らす状態になる |
| 消防法(防火の用途) | 用途ごとに必要な消防用の設備や点検 | 建物の持ち主・管理する人 | 住まいが混じることで、建物に求められる設備が変わることがある |
| 賃貸契約(使用目的) | その部屋を何に使うと約束したか | 借りる人 | 約束と違う使い方になり、解除や退去を求められる理由になる |
「違法かどうか」だけで考えると、借りる人には関係の薄い話に見えるかもしれません。しかし実際に困るのは、持ち主が負っている責任と自分の住まいが結びついてしまうことです。以下で1つずつ見ていきます。
建物には「何に使う建物か」が決まっている
建物は、建てる前の確認申請の段階で、事務所なのか、共同住宅なのか、店舗なのかといった用途を決めて設計されます。建築基準法は、用途ごとに満たすべき基準を変えています。人が毎日寝起きする住宅の居室には、窓の大きさ(採光)の基準があり、共同住宅であれば隣の住戸との壁の遮音や、避難のための基準も求められます。
事務所として建てた部屋は、こうした住宅向けの基準を前提にしていないことがあります。窓が小さい、浴室が無い、隣の部屋との壁が住宅ほど厚くない、といった違いは、住んでみると生活のしにくさとして表れますが、法律の上では「住宅の基準を満たしていない部屋に人が暮らしている」という問題になります。
また、建築基準法は共同住宅を、多くの人が使うために特に安全への配慮が必要な「特殊建築物」に含めています。一方、事務所は特殊建築物に入っていません。事務所ビルの部屋を住まいに変えると、その部分は住宅としての基準で見られることになり、共同住宅として扱われる場合は、特殊建築物ではない用途から特殊建築物への切り替えになります。
部屋を住まいに変えるのは「用途変更」
建物の使い方を変えることを用途変更といいます。国土交通省によると、特殊建築物への用途変更で建築確認の手続きが必要になる規模は、2019年6月25日の改正で床面積100平方メートル超から200平方メートル超に引き上げられました。200平方メートル以下なら、確認申請の手続きそのものは要りません。
ここで誤解しやすいのが、手続きが要らないことと、基準を満たさなくてよいことは別だという点です。国土交通省は、確認申請が不要な場合でも建築基準法や消防法などへの適合は引き続き求められ、必要に応じて自治体の建築や消防の担当部署に相談するよう案内しています。事務所の1室を住まいに変える場合も、住宅としての基準に合っているかは問われ続けます。
こうした責任は、借りる人ではなく建物の持ち主にかかってきます。事務所の賃貸借契約で「住居としての使用を禁じる」と書かれていることが多いのは、借主の暮らし方次第で、持ち主が基準に合わない状態を抱えてしまうおそれがあるからです。
消防の決まりも、事務所と住まいで違う
消防法でも、建物は用途ごとに区分され、必要な消防用設備や点検の中身が決まっています。事務所と共同住宅は別の区分で、同じ建物の中に住まいが混じると、建物全体の扱いが変わることがあります。
大きな違いは、人が寝ている時間があるかどうかです。住まいは、寝ている人が火事に気づいて逃げられることを前提にしなければなりません。事務所の部屋でこっそり暮らす人がいると、建物の持ち主や管理会社が想定していない危険を抱えることになり、これも持ち主が住むことを認めない理由の1つです。
借りる人に一番かかわるのは賃貸契約
事務所として借りる契約では、契約書の使用目的に「事務所」と書かれます。借りた人は、契約で決めた使い方に従って部屋を使う義務があります(民法第616条で準用する第594条第1項)。事務所として借りた部屋に住むことは、この使い方の約束に反します。
約束に反したからといって、すぐに契約が解除されるとは限りません。しかし、黙って住み続け、注意を受けても改めなければ、貸す側との信頼関係が壊れたとして解除や退去を求められる理由になります。仕事場を失うと同時に住まいも失うことになるため、事業への影響は小さくありません。
行政との関係でも、借りる人が無関係とは言い切れません。建築基準法第9条は、基準に違反した建物について、持ち主や管理者だけでなく、使っている人(占有者)に対しても、使用の禁止や制限などの是正を命じられると定めています。
家賃の消費税は契約の中身で決まる
住宅の貸し付けは消費税がかからず、事務所の貸し付けにはかかります。事務所として借りた部屋は、実際に住んでいても家賃に消費税がかかる前提の契約です。住まいと仕事場を1室で済ませるつもりで事務所を借りると、消費税の分だけ住居用より負担が重くなります。契約の種類と消費税の関係はSOHO賃貸の消費税はかかる?住居契約と事務所契約の違いで詳しく説明しています。
住民票はどうなるか
住民票は、実際に住んでいる場所に置くもので、住む場所を移したら14日以内に届け出る決まりです(住民基本台帳法)。住民票を移すかどうかで住んでいるかどうかが決まるわけではないので、事務所として借りた部屋で暮らしていれば、住民票を移しても移さなくても、契約とのずれは残ります。住民票を移さずに暮らすと、今度は住民票の側が実態とずれることになります。
決まりの前に、暮らしの面で困ること
法律や契約の話を別にしても、事務所として作られた部屋で暮らすと、毎日の生活で困る場面が出てきます。住むことを考え始めたら、次の点を実際の部屋で確かめてみてください。
浴室や台所が無い
事務所の部屋には、給湯室やトイレはあっても、浴室や住宅向けの台所が無いのが普通です。銭湯やジムのシャワーで済ませる暮らしは、短い期間なら成り立っても、長く続けるには負担が大きくなります。洗濯機を置く場所や排水が無いこともあります。
空調や電気が止まる時間がある
ビル全体で空調を動かしている建物では、平日の日中だけ空調が動き、夜間や休日は止まる設定になっていることがあります。延長には申し込みや追加の費用が要る場合もあり、夏や冬の夜を過ごすには向きません。
夜間や休日の出入りに制限がある
オフィスビルは、夜間や休日に入口を閉めたり、入館の記録を取ったりしていることが多く、毎日遅くに帰ってくる暮らしには合いません。管理会社や警備会社が夜間の滞在に気づくきっかけにもなります。
ごみを家庭ごみとして出せない
事業のために借りた部屋から出るごみは、事業活動に伴うごみとして扱われ、家庭ごみの集積所には出せないのが原則です。ビルで契約している回収に従うことになり、暮らしから出る生ごみなどの扱いに困ります。
費用が思ったほど安くならない
事務所の契約は、住居の契約より敷金(保証金)が高めに設定されることが多く、家賃には消費税もかかります。自宅を引き払って事務所だけにすれば家賃は1本になりますが、入居時の費用や設備の不足を埋める出費まで含めると、住居用で事業での利用が認められた部屋と比べて得になるとは限りません。
「泊まる」と「住む」はどこで分かれるか
仕事が立て込んだ夜に、事務所で一晩仮眠を取ることまで問題になるのかという疑問もよく聞かれます。はっきりした日数の線があるわけではありませんが、住むことに近づくほど問題は大きくなります。着替えや寝具を置いて毎日寝起きする、郵便物の受け取り先にする、ほかに住まいが無い、といった状態は、仮眠ではなく暮らしです。
一晩の仮眠も、建物の管理規約で夜間の滞在や宿泊を禁じていることがあります。セキュリティや消防の管理の都合で、夜間の入館そのものに届け出が要るビルもあります。泊まることが前提の働き方なら、最初から住まいとして使える物件を選ぶほうが安全です。レンタルオフィスについてはレンタルオフィスで寝泊まりはできる?泊まれるオフィスの実態とレンタルオフィスに住むのはNG?合法的に住めるオフィスの選択肢にまとめています。
住みながら働くなら、どんな物件を選ぶか
住まいと仕事場を1つにしたいなら、発想を逆にして、住居として建てられた建物のうち、事業での利用が認められた部屋を探すのが近道です。建物の用途は住宅なので、暮らすことに建物側の問題は無く、契約で仕事に使うことも認められています。募集では「SOHO可」「事務所利用相談可」などと書かれます。
ほかに、住居と事務所の両方を使用目的に書いて契約できる部屋や、事務所ビルの持ち主が用途を見直したうえで住居として貸している部屋もあります。後者は数が少なく、本当に住まいとして貸しているのかを書面で確かめる必要があります。
| 事務所として借りた部屋 | 住居用で事業利用が認められた部屋 | レンタルオフィス | |
|---|---|---|---|
| 住めるか | 住めない(契約違反) | 住める | 住めない(規約で禁止が一般的) |
| 住民票 | 住む前提ではないので置く場面が無い | 置ける | 置く場面が無い |
| 家賃の消費税 | かかる | 住居契約ならかからない | 利用料にかかる |
| 法人登記 | できることが多い | 物件ごとに違う | プランによる |
| 来客・看板 | しやすい | 制限されることが多い | 共用の受付を使える場合がある |
住居用で事業利用が認められた部屋でも、法人登記や来客、看板の扱いは物件ごとに違います。登記を考えているならSOHO物件で法人登記はできる?条件・手続き・注意点もあわせて確認してください。
募集の言葉の読み方
物件の募集では、「SOHO可」「事務所利用可」「事務所利用相談可」「住居兼事務所」など、よく似た言葉が使われます。住居用の建物で「事務所利用相談可」とある場合は、貸主が事業での利用の相談に応じるという意味で、どんな仕事でも認められるとは限りません。業種や来客の頻度によっては断られることもあります。
問い合わせるときは、仕事の中身、来客があるか、法人登記をするか、郵便受けや玄関に屋号を出したいか、荷物の出入りがどの程度あるかを伝え、そのうえで住んで働けるかを確かめると、契約してからの食い違いを防げます。
契約の前に確かめる書類
住みながら働けるかどうかは、募集の言葉だけで判断せず、書類で確かめるのが確実です。見ておきたいのは次の4つです。
1つ目は賃貸借契約書の使用目的の欄です。「住居」だけなのか、「住居及び事務所」なのか、「事務所」だけなのかで、できることが決まります。仕事での利用を認める特約が別に付いていることもあります。
2つ目は重要事項説明書です。使用目的など、部屋の利用の制限が書かれています。契約の前に宅地建物取引士から説明を受けるので、住む予定と仕事の中身をこの場で伝え、問題が無いか確かめておくと後で揉めません。
3つ目は分譲マンションの部屋を借りる場合の管理規約です。部屋の持ち主が事業での利用を認めていても、マンション全体の規約で住宅以外の使い方を禁じていれば、そちらが優先されます。
4つ目は建物の登記です。建物の登記には「種類」の欄があり、居宅、共同住宅、事務所などと記録されています。事務所ビルの部屋を住まいとして貸すと言われたときの確認材料になります。
仕事での使い方について相談した内容は、口頭で終わらせず、契約書の特約やメールなど後から見返せる形で残しておきましょう。
よくある質問
事務所に住んだら罰則がありますか
事務所に住んだこと自体で、借りた人がすぐに罰せられるわけではありません。問題になりやすいのは、賃貸契約に反することと、建物が基準に合わない状態になることです。ただし、建築基準法に違反する状態があれば、行政は持ち主だけでなく使っている人にも使い方の是正を命じることができ、命令に従わなければ罰則の対象になります。
大家さんの許可があれば事務所に住めますか
許可があれば契約上の問題は解消できますが、建物の用途や消防の基準は許可では変わりません。持ち主が用途を見直し、住まいとして使えるよう手当てをしたうえで住居として貸すのかを確かめてください。口頭の了承だけで住み始めるのは避けましょう。
事務所に住民票を移せば、住んでいることになりますか
住民票は住んでいる場所に置くものなので、住民票を移したかどうかで住んでいるかが決まるわけではありません。事務所として借りた部屋で暮らしていれば、住民票の有無にかかわらず、契約とのずれは残ります。
SOHO可の部屋と事務所可の部屋は同じですか
言葉の使い方は募集ごとに揺れますが、見るべきは建物の用途と契約の使用目的です。住居用の建物で事業での利用が認められた部屋なら住めます。事務所ビルの部屋で「事務所可」と書かれていても、住むことまで認められているとは限りません。
事務所の近くに小さな住まいを別に借りるのと、どちらが得ですか
来客が多い、看板を出したい、法人登記を確実にしたいといった理由で事務所が必要なら、事務所と住まいを別に借りるほうが契約の面では無理がありません。住まいと仕事場を1つにしたい理由が家賃を抑えることなら、住居用で事業での利用が認められた部屋を1つ借りるほうが、事務所の保証金や消費税がかからない分、負担を抑えやすくなります。どちらが得かは、仕事に事務所の機能がどこまで要るかで決まります。
事務所を住まいに変えるのは誰の手続きですか
用途変更は建物の持ち主が行うものです。借りる人が自分で手続きをして住めるようにする、というものではありません。
まとめ
事務所として借りた部屋に住むことは、建築基準法の用途、消防の決まり、賃貸契約の使い方の約束の3つとぶつかります。用途変更は2019年の改正で床面積200平方メートルまで確認申請が不要になりましたが、手続きが要らないだけで、住宅としての基準や消防の基準を満たす必要は変わりません。借りる人にとって一番の問題は契約で、黙って住めば仕事場と住まいを同時に失うおそれがあります。
住まいと仕事場を1つにしたいなら、住居として建てられた建物で事業での利用が認められた部屋を選び、契約書の使用目的と重要事項説明、管理規約、建物の登記で確かめてから借りるのが確実です。
次にやること
東京で住みながら仕事場にできる部屋は、事務所利用相談可のSOHO賃貸や東京都のSOHO賃貸の一覧から探せます。住まいと仕事場を分けたほうがよいか迷っている場合は、住居兼事務所のメリット・デメリットも参考にしてください。
参考にした公的な資料
- 国土交通省「建築基準法改正により小規模な建築物の用途変更の手続きが不要となりました!」(2019年6月25日施行)
- 建築基準法(第2条第2号 特殊建築物、第9条 違反建築物に対する措置、第87条 用途の変更)
- 民法(第616条、第594条第1項)、住民基本台帳法(第22条)
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